量子コンピュータ産みの親

であるDeutschの考えを知りたく本書を読みました。
"The Fabric of Reality: The Science of Parallel Universes-And Its Implications"
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/014027541X/mixi02-22/

ファイマンがコンピュータへの量子論を初めて適用しましたが、それは現在のコンピュータを量子論でシミュレートした程度であり、そこにはDeutschが提案した量子重ね合わせの原理が組み込まれていません。

その量子コヒーレントな状態をコンピューティングに活かすための基本原理に理解できない点が幾つかあるために、その提案者であるDeutschの考えを少しでも理解できたらと思い本書を読みました。

しかし、本書によりDeutschの考えを理解することは僕にとっては非常に困難な知的活動を要求するものです。

本書を読んでいて、まるでゲーテの作品であるファウストのごとく、メフィストであるDeutschにあちこちに連れまわされてしまったように感じてしまいました(笑) ただし、知的好奇心を掻き立ててくれたことは確かです。僕の能力が及ばないだけのことです。

なお、上述した僕の疑問には答えてくれませんでした。あるいは答えているのかもしれませんが、それが僕には分かりませんでした。

Deutschは、量子の重ね合わせをさらに発展させてParallel Universities理論を提案しています。そのParallel Universitiesを活用したのが量子コンピュータである、としています。多くの量子コンピュータ研究者はそこまでは考えずに、単なる量子重ねあえわせ原理を利用して量子コンピュータによる並列処理を可能にする、と言っています。つまり、基本的なところでDeutschの考え方とは違っていることになります。

それではそのParallel Universities理論とはなんであるか、を本書を通して僕は理解ができなかったのが残念です。なぜそこへ理論が展開できるのかが分かりませんでした。どうしてそのようにDeutschは考えたのかが分かりませんでした。ファウストメフィストを理解できないのと同じかもしれません(笑) そうすると単なる重ね合わせ原理を利用しただけだと量子コンピュータの並列処理は実現できないのでしょうか? そのことにも関心があります。

また、デコヒーレント、つまり量子の観察問題に関するDeutschのとらえ方も独自の考え方を持っているようです。Parallel Universitiesで実現される結果を共用できると言っているのは、Parallel Universitiesそのものを理解できない僕にはもうこのレベルでついていけません。

しかし、Parallel Universitiesを単に、観察者それぞれから見た宇宙が観察者の数だけUniversitiesがあり、それぞれがParallel Universitiesとして存在し、それらがある条件のもとに情報を共有できる、という範疇では理解できるます。しかし、Deutschがいう Parallel Universitiesはそれを超えたもののように思えるのです。その超え方が分からないのです。

僕のいうParallel Universitiesは一般相対性理論の立場から表現しているにすぎませんが、Deutschはあくまでも量子論からみたParallel Universitiesを述べているわけですから、その違いは歴然としています。DeutschのParallel Universitiesでは、もしタイムマシンで過去に行ったとしても矛盾が起きない世界として定義していわけですから。

僕の知的レベルがもう少し上がった時点で、本書を再読してみたいと思います。