ワープする宇宙―5次元時空の謎を解く

2007 日本放送出版協会
リサ・ランドール, 塩原 通緒


実に面白い。また、中身は物理学の根本問題を語りかけていますが、女性的な丁寧な書き方に感心しました。勿論、翻訳者の能力が高いのも確かです。かなり興味を引いたので次は原文で読みたいと思います。

なお、かなり厚い本ですが、本書のメインは後半の半分のみです。前半は、そこへ至るための一般的な物理学の流れを書いているにすぎません。その辺の内容であれば、他にもっといい本があるのでそちらをお勧めします。

しかし、この本の面白さは、その後半にあります。超ひも理論から出てきたブレーンをさらに発展させてブレーン宇宙モデルを構築し、そのモデルにより素粒子物理の標準理論とそれが抱える階層性問題を解決するいことができることを示す話は実にドラマチックです。そして、4次元を隔離した重力ブレーンから広がる5次元目の空間がワープすることにより重力が指数関数的に小さくなり、それが局所集中したグラビトンがあたかも4次元の重力として我々が見えるストーリに興奮せざるを得ない。

そして時空次元の数の異なる間での双対性があることから果たして次元とはなんであるか、との最初の疑問点に戻るストーリは実に面白い構成になっています。最後に(よく言われていることでもありますが)、”空間と時間は、幻想である”との話につながっています。

しかし、そこまで話を展開しながら、スピンネットワークモデルの話に展開していないのがちょっと残念です。つまり時間と空間は単なる二次的なものである、という立場で進められている論理です。やはり、この辺がこの本の限界かもしれません。超ひも理論が提案する高次元の話がトリガになってさらに理論を展開している立場に本書は立っています。

なお、本文に、そのスピンネットアークの研究者の一人であるスペインの物理学者マルコポーロの話は少し出ていましたね。