ひとびとの蛩音

司馬遼太郎全集 第50巻
1984
文藝春秋
司馬 遼太郎

子規の死から始まって「子規全集」を作るまでの子規を取り巻く人々、特に、司馬さんの友人たちでもある子規の妹の養子、そしてその友人を中心に大正から昭和50年代までを舞台とした人々の生きざまを書き綴った作品です。子規の話は子規自身の書いた本や司馬さんの作品などで伝えられていますが、その子規が活躍した7年間の病床を支えた母堂の八重や妹の律の話は、この作品を通して実態のいくらかを感じることができる作品でもあります。さらに、ここに登場する司馬さんの描くさまざまの生きざまを読むにつれ、司馬さんの作品としては珍しく笑ったり・涙が溢れる作品でもあります。司馬さんが心から愛した友人を描いている、というのがひしひしと伝わる素晴らしい作品であると思います。司馬さんがどこかで書いていた文章、”人生とは、自分の美意識を完成するところである、そして人知れず死んでいくことなんです”、という様な言葉を思い出しました。そして、司馬さんが、ここにそんな人々が沢山いるんだよ、と教えてくれているような作品に思えてなりません。

そして、この作品の結びにある、死んでゆく友に送る言葉は、何度読んでも、その表現の素朴さ故に、強烈に胸に刺さるものがあります。