墨汁一滴

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4003101340/mixi02-22/
1984
岩波書店
正岡 子規

200ページも満たない厚さの随筆ですが、一つ一つの文章を3回、4回、5回と繰り返し読み続けると体に染み透るような心地よさを感じる気分のよい読書を楽しみました。気がつくと1000ページもの随筆に相当する本を読んだことになります。

司馬遼太郎のある作品に、子規の生前に、病床を幾度となく訪れたことがあるお年寄りとの会話が記載されています。そのお婆さんが、子供の頃を思い出しながら司馬さんに子規の部屋の模様を話している内容なのですが、その中で子規の部屋の天井から黒い駝鳥の卵が吊るされていた、という話が記載されていました。司馬さんは、自分の記憶を辿りながら、子規の部屋にそのようなものが吊るされていた、という記憶は何処にもなかったように思うが、もし実際にあったとしたら、子規の気分を表すのにいい話なのだが、ということでその作品は終わっていた記憶があります。

その黒い駝鳥の卵が天井から吊るされている話を、この随筆で子規が書いているのに出会い、その部屋にそのおばさんの子供の頃の姿があるようで何か嬉しさが込み上げてきました。。