迷走する物理学

2007
ランダムハウス講談社
リー スモーリン, 松浦俊輔


ほぼ一年前に原本を読んで、http://d.hatena.ne.jp/KeiichiKoyanagi/20070503 にその感想を書きました。その訳本が出版されたのを知り今回、再度、訳本として読ませてもらいました。いい本です。以下に、原本を読んだ時の感想を再掲しておきます。

ここで追加の感想を箇条書きすると、

・Charles Seifeが指摘する(量子)情報理論からの取組の観点をどう考えるか? 本書では触れられていない。本書が指摘する課題1と2に深く関わる可能性があります。

一般相対性理論が意味するものは、背景非依存(Background-Independent)であり、時空は二次的な相転移として創生されたものとして考えることが根本的に必要である、と再度痛感するしだいです。

・この文章はいいですね。 “良い科学者は、自分の学生が自分より優秀であることに期待する。良い科学者は、自分が学生よりもよく知っていると信じだいくなる気持に負けたとたん、自分は科学者でなくなることを知っている。”


ーーーーーーーーーーーーーー再掲ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



エキサイティングな著書である。

マイミクのまるさんから紹介された本です。

"The Trouble with Physics", by Lee Smolin

http://www.amazon.co.jp/Trouble-Physics-String-Theory-Science/dp/0618551050/ref=sr_1_1/250-5909455-8842621?ie=UTF8&s=english-books&qid=1178165009&sr=1-1

私にとって本著者の本は2冊目ですが、これが最新の著書だけあって最新情報を含めてよく整理されていると共に、将来に向けた研究活動の示唆ばかりでなく、学会のあり方に関する問題点にまで言及している点が面白い。

現代物理学が解決しなくていけない5つの問題を先ず提起し、これまでの30年間に優秀な物理学者が挑んできた超紐理論が、その課題の中の1つである、課題3:the various particles and forces can be unified だけが解決されているのみであるとしている。

そして更に、近年の研究からアイシュタインの特殊相対性理論の誤りが明確になっていきている、との指摘、つまり、光はその周波数に依存することなく一定である、が近似値でしかない、ことが明らかになりつつある(2007年夏のNASAから打ち上げられる衛星がガンマ線を測定することにより実験する予定ーーその後2008年に実験が延期になったようです)。つまり温度で光の速度は変わる、しかも周波数に依存することが実験で示される可能性がある。つまり宇宙ビッグバンの前の超高温では光の速度は限りなく速く、まさにインフレーションとして膨張した理由が説明できることになる。

唯一、この特殊相対性理論で裏づけされる超紐理論が大きく軌道修正される可能性が高い、との指摘が展開されている。

そして、著者は、Quantum Gravityの研究は、座標軸や時間軸の選び方に依存しないBackground-Independentを前提にした理論こそが重要であり、Background-dependentを前提にした超紐理論に問題がることを指摘している。

超紐理論が華々しく学会で議論されている中で、loop Quantum Gravityなどの研究を進めていた若者がこれまで示してきたBackground-Independentを前提にしてきた研究が上記5つの基本問題を明らかにする可能性が、超紐理論よりも高いとの見解を示している。著者の知人であるマルコポールさんやその他の若い研究者が、そのloop Quantum Gravityを発展させて、spacetimeが、創生される、つまり二次的なものとしてプロセスとして生み出されたものであり、離散的かつcasuality(因果関係:まるさんの訳)を基本とする理論を確立していく話を興奮して読ませてもらいました。さらに、その理論を発展させることによりspacetimeだけが創生されるのではなく、粒子も創生されることを示したことで、超紐理論がだけが粒子の理論でないことを明らかにしたということは、まさに、新たな新たな物理学の展開につながる大きな進歩であると思いました。

それにしてもどこの学会も、一見主流として動いているものが実は、本来の科学や技術の発展を阻害している、というのはよくある話です。本書は、物理学会におけるひも理論を例に、この数十年の物理学の進歩がなぜ遅れたかを多くのページを使って分析しています。その主たる原因を学会であるとしています。なるほどと思って読みました。昔からどこでも起きていることだと思います。