ロシアについて --北方の原形

司馬遼太郎全集 (53)
文芸春秋
1998年12月

本作品に200年あまりの日露交渉史が見事に描かれている。司馬さんの作品である “坂の上の雲”や“菜の花の沖”を書き上げるために司馬さん自身が学び考え込んだことが一気に展開されている。シベリア側から眺めたロシアであり、そこには中国、モンゴル、満州、朝鮮などの国々を含んだ展開になっている。そんな意味では司馬さんの“韃靼疾風録”の背景をも取り込んだ作品に仕上がっている、ともいえる。そしてその展開の中で、他国との交渉において一つの窓からその国を眺めることがいかに危険であるかの警笛を鳴らしている。空間的かつ時間的広がりをもったものの見方の必要性を具体的に訴えている凄みのある作品であると思います。