宇宙をプログラムする宇宙―いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界

2007
早川書房
セス・ロイド, 水谷 淳

丁度一年ほど前に本書の原本を読み、最近翻訳本が出ているのを知り、今回改めて日本語で読み返しました。原本の所感は、 http://d.hatena.ne.jp/KeiichiKoyanagi/20070620 に書いてあります。また、以下に再掲しておきます。

本書は、“ 宇宙を復号する―量子情報理論が解読する、宇宙という驚くべき暗号”を書いたチャールズ・サイフェ (http: //mixi.jp/view_item.pl?id=897036)と同じく、量子情報理論により宇宙論を展開しています。従って、両者の立場は同じです。しかし、立場は同じですがとらえ方が異なります。どちらが正しいかどうか、という問題ではなく、少し見方を違えると立場は同じでも理論展開が違ってくる、という面白い例になっています。

その違いはいろいろありますが、最も大きな違いは、チャールズ・サイフェは、一貫して"Information can be neither created nor destroyed"を基礎において展開していることです。一方、セス・ロイドにはそんな原則はありません。

また、セス・ロイドは複雑系の研究者でもあり彼が提案している有効複雑系の概念とからめた情報理論の展開や、ファインマンが、その存在を指摘したにすぎなかった汎用量子シミュレーションを、普通の量子コンピュータ自体が汎用量子シミュレータであることを証明した科学者であることから、本書の展開はサイエンスジャーナリストであるチャールズ・サイフェとは異なり、技術的な詳細に入った興味深い理論展開であると思います。

例えば、宇宙そのものを汎用量子コンピュータと見立て、誕生から現在までにどのくらいの計算をしたか、つまりどのくらいの大きさの量子ビットが、140億年間にどのくらいの命令を処理したかの理論展開などは実に面白いです。

                • 再掲-----


http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/1400033861/mixi02-22/

なるほど量子コンピュータの研究者を代表する一人であるSeth Lloyd氏の最新の本であるだけあって実に面白い。また一つ新たな物の見方を発見した思いがします。

宇宙を熱力学の第一と第二法則、つまりエネルギーと情報(エントロピ)として捉え、理論を掘り下げていく展開には人を引き付けるものがあります。勿論、いろいろな本にエネルギーと情報で宇宙を捉える話は出てきますが、宇宙誕生の話から可能な限り表現しているところに面白さがあります。そして、その結論として、宇宙は量子ビットを持つ量子並列処理可能な量子コンピュータであるとし、その宇宙量子コンピュータの大きさを計算して示しています。その量子コンピュータを作り上げれば、宇宙のシミュレーションではなく、宇宙そのものになる、という展開になっています。

勿論、ペンローズが指摘するようにその基本となる量子力学そのものにまだ課題がある限り実現には困難を伴いますが、提案としては見るものがあります。例えば、僕のような未熟者の感想としては、量子並列処理により現在のコンピュータから想定できない処理速度が可能になっても新たなアルゴリズムがそれだけからは生み出されるようには思えないですね。

筆者は、Lee Smolinの著書Three Roads to Quantum Gravity http://mixi.jp/view_item.pl?id=722768 のFourth Road にQuantum Computerがなりえると言明しています。

ただ、本書を読んでいると、Lee Smolinの最近の著書であるThe Trouble Physicsでも指摘しているloop Quantum Gravityで議論になっているspacetimeの創生に関わるcasuality問題にQuantum Computerの適用が最も向いている、と言っている観点から考えても、相反する理論というよりも相補的な理論の関係があるように思えます。

http://mixi.jp/view_item.pl?id=764409