嵯峨散歩

KeiichiKoyanagi2009-02-14

司馬遼太郎全集〈59〉街道をゆく人(8)
にあります。

私が初めて嵯峨野を訪れたのは、中学時代の修学旅行です。一日の自由行動を数人の友人達と嵯峨野で過ごしましました。過ごしたというよりも走り抜けた、と表現した方が正しいかもしれません。44年も前の話です。小倉山に行ってみたい。万葉集に出てくるその山の名前が、当時の私に不思議な気持ちを抱かせました。その気持ちが嵯峨野を走らせました。獣道を走り、小倉山を登りました。山から下りると、そこは二尊院の境内でした。そのまま走って、門を裏から出ました。門前に広がる田園風景の中をさらに走りました。田んぼと畦道が交差したのどかな世界がそこにはありました。畦道を走り抜けた記憶が今でも鮮明に残っています。幾つものお寺や庵を駆け抜けたところに大きな門があり、その前で立ち止まりました。そこに奉納されている巨大な草鞋を抱え込み、さらに畦道を走りました。あまりに大きな草鞋を持て余し、小川に投げ捨てては、また、走りました。そんな悪戯小僧を微笑みで迎えてくれた庵がありました。女性(尼さんか?)が、縁側に座り走り抜ける私たちを迎えてくれました。私は、その微笑みに惹かれて縁側に座りました。お菓子を出してくれたので食べた記憶があります。2部屋ほどの小さな庵であったように思います。1つの部屋に本尊が祭られていました。その女性は、お菓子を食べる悪戯小僧に、その本尊について説明してくれている様でした。そんな記憶が、私の嵯峨野の原風景です。その後も何度か訪れ、昨年の夏も保津川下りを楽しみましたが、今、思い浮かぶ嵯峨野の風景は、その時の風景です。しかし、その世界では、小倉山、二尊院の他に名前がありません。あとは、走り抜ける景色だけがあります。




二尊院境内