愛蘭紀行

司馬遼太郎全集〈61〉 街道をゆく(10)
文藝春秋 1999年8月にあります。

本作品は、アイルランドが生み出した文学を通してアイルランドを語っているところに他の作品とは異なる特徴を持っています。愛蘭文学が好きな人にはどれほど心に響く作品であるだろうと思います。その点、愛蘭文学に疎い僕には、本書の面白さの一部しか味わえないのは残念でしかたがありません。


しかし、そんな僕にも十分心を豊かにしてくれる作品になっていると思います。いい作品です。 


20年以上前、初めて本書を読んだ時、小泉八雲ラフカディオ・ハーン)の生い立ちに触れ、ニューオリンズにある彼に関わる家、それが今では女性がテーブルダンスを踊るお店になっているのですが、そのバーに入り、お酒を飲んだり、松江に行くたびに彼が過ごした家を訪れたりしています。ただ、アイルランドを代表するイェイツ、ジョイスシングやベケットの作品をこの20年間、接していないのは、僕の不勉強でしかありません(笑)。


本作品で、これら文学に触れ、アイルランドへのカトリックの広がりによる古代宗教への影響と、中国への仏教の広がりと道教の関わり、そして日本での仏教の広がりに対しする日本の神々の仏教への帰依(明治維新でこれが破壊されますが)との比較文化論は、今読んでも心に訴えるものがあります。


アイルランドの森に住む妖精である小人達の長い歴史の面白さと、日本の神々の仏教への帰依から取り残された天狗と河童などの関わりなどが展開される作品になっています。


つまり、アイルランドを通して、司馬さんは、イギリス、そしてヨーロッパとアメリカ、中国、日本の文化論を展開しています。


司馬さんは、アイルランドからの帰国後、ジョン・フォード監督の静かなる男を観ています。


僕は、愛蘭文学には触れていませんが、せめてジョン・フォードが自分の故郷を描いた作品を観たいと思いアマゾンからDVDを購入し、観ました。いい作品ですね。懐かしいです。場面のところどころをが蘇ってきます。たぶん、父と一緒に映画館で観たのではないかと思います。

アイルランドにすぐにでも行きたくなりました。僕にはまだ未踏の国です。